案件分析による市場把握

2026.03.10
案件分析による市場把握

案件分析による市場把握

営業メールの山、求人票のPDF、商談ログ。バラバラの情報を「案件データ」に整えるだけで、市場の温度は一段クリアに見えます。感覚頼みの“市場感”を、単価・需要・競合度という数値に落として、アサインと採用と育成を同じ地図上で意思決定する。SESの現場で効くのは、この地味な基盤づくりです。

求人票と商談ログを“データ化”する

集める情報の最小セット

まずは取引先からの打診メール、求人サイトの掲載、チャットでの相談、過去の成約/失注記録を一つのスプレッドシートに集約します。必ず列で持つべきは以下です。

  • 技術タグ(例:Java, Spring, React, AWS)と業種タグ(金融/小売/メーカーなど)
  • 必須/尚可スキル、経験年数、英語要件
  • 商流(直請け/一次/二次)、稼働率、期間、週稼働日数
  • 勤務地/リモート比率、面談回数、開始希望時期
  • 単価レンジ(下限/上限/想定中央値)、支払いサイト
  • 推薦日時、面談日時、結果(成約/失注/保留)、失注理由

正規化とタグ付けの自動化

自由記述をそのまま残すと集計できません。LLMを補助輪にします。ChatGPTやClaudeで求人票から項目を抽出し、Geminiでスキル表記のゆれ(NodeJS/Node.js など)を統一、Copilotで関数化して日次で更新。単価は「税抜/税込」「140-180h精算」のような条件も同時に正規化します。重複案件は類似度判定でマージし、参照元だけ追記。タグは多すぎると分析不能になるので、技術は上位30、業種は上位10に絞るのがコツです。

市場感を数値化するダッシュボード

毎週確認する指標セット

  • 案件供給指数=週あたり新規案件数/有効取引先数(増加は市場の活性)
  • レート中央値と四分位範囲(IQR)=値決めの基準と交渉余地
  • 競合度=1案件あたりの推薦人数(高いほど成約難易度↑)
  • 面談リードタイム=推薦→面談までの日数(営業速度の遅延検知)
  • 成約率=推薦→成約(スキル適合度と提案品質の総合点)
  • リモート比率の推移(通勤制約が採用母集団に与える影響)

スキル×業種のピボットで「どの組み合わせが高単価/高成約か」を見ると、狙うべきセグメントが浮かびます。4週移動平均で季節性を平滑化し、Zスコアで急騰急落にアラートを出すと、営業の優先順位づけが自動化できます。

テキストの“意味”で束ねる

技術タグだけでは拾えないニュアンス(例:ReactでもSSR必須、AWSでもECS運用中心)を捉えるため、要件文を埋め込みベクトルでクラスタリングします。LLM要約で「求めている役割(実装/運用/要件定義/PdM補佐)」を抽出し、役割×技術でレートと成約率を再集計。ここまでやると、「実装スキルは十分だが役割ミスマッチで落ちている」案件が見えてきます。

アサインと育成への落とし込み

アサイン基準を数式に

  • 推奨アサイン指数=適合スコア(スキル/年数/役割)×市場係数(直近4週の需要/競合度)×レート係数(中央値比)
  • 基準を満たす案件は「推薦24時間以内」をルール化。遅延はボトルネックを特定(職歴書更新/面談調整)

単価交渉は「中央値+IQR/2」を初手に、競合度が高い時は歩留まりを優先、低い時はレート最適化を優先。直請け比率の上昇がレートを何%押し上げるかも回帰で推定し、開拓の重みづけに使います。

育成と採用の焦点を定量で決める

  • 需要伸長かつ教育コスト低のスキル(例:TypeScript→Next.js)は短期ブートキャンプで埋める
  • 需要高だが役割高度(要件定義/設計)はシニアのシャドーイングや社内案件で実地習熟
  • 採用ペルソナは「高成約スキル×高リモート比率×短期立ち上がり」を優先

職務経歴書は役割別テンプレに更新し、案件要件に合わせてChatGPTで箇条書きの表現を調整。面談質問想定はClaudeで生成して事前練習、キーワードの齟齬を減らします。

身近な企業活用例:30名規模のSESでの失敗と反転

首都圏を中心にフロントエンドに強みを持つ従業員30名のSES。案件は潤沢なのに成約率は15%で横ばい、単価も下落傾向。営業は経験則で動き、React案件ばかり追って二次請け中心、推薦も3日遅れが常態化していました。

改善では、営業メールと求人票を統合し、ChatGPTとGeminiで技術/役割/商流/単価を正規化。Claudeで要件の曖昧表現を標準化し、Copilotで日次の集計を自動更新。ダッシュボードは「案件供給指数」「競合度」「レート中央値」「推薦から面談までのリードタイム」を可視化。データを見ると、ReactでもSSRや設計主導の役割は高単価・低競合、逆に画面実装中心は低単価・高競合という差が明確に出ました。

打ち手は3点に集中。1) 役割が「設計/SSR」クラスタの案件を優先し、推薦は24時間以内を厳守。2) シニア2名がNext.js/SSR設計の30時間ブートキャンプを実施して準シニアを底上げ。3) 直請けの打診が多い業種(EC/メディア)を営業リストの上位に再配置。

3カ月で成約率は15%→28%、レート中央値は12%上昇、推薦→面談のリードタイムは平均2.1日短縮。失注理由の内訳は「単価折り合わず」が減り、「英語要件不足」が相対的に増えたため、次の四半期は英語読解の社内ミニ講座と、英語要件ありのサポート案件を検証的に追加。稼働率は95%で安定し、二次請け依存も徐々に低下しました。

案件分析は、営業トークを磨くテクニックではなく、常駐エンジニア事業のオペレーションそのものを整流化する基盤づくりです。市場を“見える化”し、数字で意思決定するチームは、波に合わせて舵を切れます。SES(常駐エンジニア)事業において、これは日々の現場に最短距離で効く投資です。